アニメ制作・映像制作業界における生成AI活用事例 ~プロンプティングを中心に~

近年、生成AI(Generative AI)の発展により、アニメ制作や映像制作の現場にもAI技術を活用する動きが広がっています。株式会社グラフィニカのようなデジタルスタジオを含む業界全体で、シナリオ作成から作画、音声まで様々な工程へのAI導入が模索されています。本記事では、アニメ制作・映像制作における生成AIの活用分野と、プロンプティング(AIに指示を与えるテキスト入力)の具体的な活用シナリオを中心にまとめ、国内外の導入事例や業界の課題・展望について考察します。

生成AIが活躍する主な分野

アニメや映像の制作工程で、特に生成AIの力が期待されている主な分野は以下のとおりです。

シナリオ・プロット作成(脚本開発)

物語の構想や脚本の下書きにテキスト生成AI(例:GPT系モデル)を活用するケースです。チャットGPTのような大規模言語モデルに作品の概要や登場人物設定を入力し、プロットのアイデア出しやエピソードのアウトライン生成に使うことができます。例えば「キャラクターAが○○をして、最後に△△となる物語を書いてください」と具体的に指示すれば、起承転結を意識したプロット案を提案してくれます​

note.com。実際に、脚本家やプロデューサーがAIをブレインストーミングの相棒として使い、設定の矛盾チェックや台詞のブラッシュアップまで行う例も出てきています​

note.com。生成AIにより多数のアイデアを短時間で生み出すことで、シナリオ開発の効率化や発想の幅の拡大が期待できます。

キャラクター・コンセプトデザイン(ビジュアル開発)

キャラクターデザインやコンセプトアートの領域でも、画像生成AIが活用されています。Stable DiffusionMidjourneyDALL·Eなどにテキストでキャラクターや背景のイメージを入力すると、高品質なイラスト案を自動生成できます。例えば「近未来の東京を舞台にしたサイバーパンク風の少女キャラクター、青い髪、スーツ姿、ブレードランナー風背景」などとプロンプトを記述すれば、条件に沿ったキャラ案やシーン画を得られます。実際、プロンプト(お題)を工夫することで多彩なバリエーションが得られるため、アーティストがラフデザインを起こす前のイメージボード作成にAIを使う例もあります​

note.com。生成AIは一度に複数のデザイン案を提案してくれるため、従来は数日かかるデザイン検討が飛躍的にスピードアップし、クリエイターはAIが出力した素材を取捨選択・編集しながら完成度を高めていくことができます。

背景美術の制作

アニメの背景美術は時間と労力のかかる作業ですが、ここでもAIが強力なツールになりつつあります。画像生成技術を使った背景自動生成では、写真やテキストからアニメ風の背景画を短時間で作成可能です。例えば東映アニメーションは実験映像『URVAN』で、AIツール「Scenify」を用いて長崎県佐世保市の実写写真をアニメ調背景に変換し、ピンク色のサイバーパンク風背景に仕上げました​

cartoonbrew.com

preferred.jp。AIによる自動変換により、下地となる背景画像の準備時間が従来比1/6に短縮され、クリエイターはディテールや作風の調整など創造的作業に専念できたと報告されています​

preferred.jp。また、日本のスタートアップRADIUS5が提供する「Anime Art Painter」では、写真をドラッグ&ドロップするだけで約30秒後には水彩風やアニメ塗り風など4種類の背景画が生成されます​

cgworld.jp。従来、プロの背景絵師が数時間~数十時間かけていた作業が数十秒で可能となり、専門知識が無い人でも簡単にアニメ背景を作れる点が画期的です​

cgworld.jp。こうしたAI背景生成を使えば、低コスト・短納期で大量の背景美術を用意でき、制作現場の人手不足を補う実験的取り組みとしてNetflix作品でも活用されました​

cartoonbrew.com

https://www.preferred.jp/en/news/pr20210312/ 図1: 実写写真からアニメ背景への変換例。元の実写写真(上)をAIでアニメ調画像に変換し、最終的にアーティストが彩色・加工を加えた背景画(下)。東映アニメーションとPFNによる実験映像『URVAN』より​

preferred.jp

https://www.preferred.jp/en/news/pr20210312/ 図2: AI変換と人間の手直しを経て完成した『URVAN』のサイバーパンク風背景美術​

preferred.jp。AIによる下地生成で約1/6に短縮された作業時間を、クリエイターが色調やディテールの調整に充てて高品質な背景に仕上げている。

アニメーション工程の補助(トゥーンレンダリング、動き生成など)

作画やアニメーションの工程にもAIの力が及び始めています。例えば、手描きアニメの動画(中割り)をAIで補完する研究が進んでおり、キーフレーム間の自動中割り生成により作画枚数を減らす試みがあります​

toona.io。実用例としては、東映アニメーションが2021年にキャラクターの自動着彩(線画に対する色塗り)にAIを活用した事例を発表しており、塗り分け作業の時短が図られました​

dokidouki.net。また、3DCGを活用するアニメスタジオではモーションキャプチャレンダリングにもAIツールを導入しています。グラフィニカでは短編作品のプリビズ(映像の事前ビジュアル化)に、WebベースのAIツールWonder Studioを採用しました​

cgworld.jp。スタッフがスマホで演技した映像から、AIが自動で人物をCGキャラクターに置き換えてモーションデータを生成してくれるため、試行錯誤しながらポーズや動きの素案を迅速に作ることができたといいます​

cgworld.jp。こうしたAI支援により、アニメーターは演技プランの検討やレイアウト作成を効率的に行え、実写撮影のように様々なバリエーションを比較して最適な表現を追求できます​

cgworld.jp。さらに映像のトゥーンレンダリング(セル画風描画)にも機械学習が使われ始めており、3Dモデルからライン抽出や影の自動補正を行うAI技術も登場しています。総じて、アニメーション工程でAIを補助ツールとすることで、職人技に頼っていた部分の生産性向上が期待されています。

ボイス合成(AI音声・合成音声)

アニメに不可欠なキャラクターボイスにも、生成AIが応用されています。テキストを入力するだけで人間のように喋る音声を作る音声合成AIは、台詞の仮録りや多言語展開で力を発揮します。例えば主要キャラの声優が収録前でも、AI音声で仮の声あてを行えば映像と台詞のタイミング確認が可能です。また、一部の作品ではAI合成音声をそのまま使用する試みもあります。海外ではゲームのNPCやナレーションでAIボイスを使う例がありますが、アニメ業界でも群衆のざわめきなど膨大なモブ音声を合成で賄う可能性があります。日本でも声優本人の声色を学習させた公式AIボイスの登場が話題になりました。人気声優・梶裕貴さんは自らの声で自由に喋らせることができるソフトを制作し、「AIと共存するため、自身の声をオフィシャルに活用できるようにした」とコメントしています​

excite.co.jp。このように声質変換AIテキスト読み上げAIを活用すれば、一人の声優が多数のキャラ音声を演じ分けたり、声優不足のシーンでAIが代役を務めたりすることも技術的には可能です。ただし後述するように、声の無断利用への懸念も強く、現在は実験的な段階にとどまっています。

映像編集・エフェクト処理

ポストプロダクションの映像編集特殊効果の分野でもAIが活用されています。例えば、実写映像を解析して自動で編集点を提案したり、重要なシーンを抽出するAIが登場しています​

skimai.com。また、映像のアップスケーリング(高解像度化)やノイズ除去ではディープラーニングが既に実用段階です。古いアニメ映像をAIでHDリマスターする試みや、動画からブレを取り除くスタビライズ処理にもAIが用いられています。さらに、背景の自動分離(グリーンスクリーン無しで人物と背景を分離)や、不要物の自動消去(AdobeのContent-Aware Fillの動画版)のように、煩雑なVFX作業を省力化するAIツールも実用化されています。最近ではRunwayPikaといったサービスで、テキストで「○○な映像」と指示するだけで短い動画クリップを生成できるようになってきました​

vidweb.co.jp。例えば「燃える森の中を駆け抜ける狼のシーン」などとテキストプロンプトを与えると、それにマッチした動画をAIが合成してくれるのです。まだ映像品質や精度の課題はありますが、将来的には編集者がイメージを文章で伝えればAIがラフな映像を作り、それを元に細部を調整するといったテキストtoビデオのワークフローも現実味を帯びています。映像編集の自動化が進めば、クリエイターは発想や構成といった創造的な部分により注力できるでしょう。

プロンプティング活用の可能性とテクニック

生成AIを効果的に使うには、プロンプト(AIへの指示文)設計が重要です。どのように指示を与えるかで出力結果が大きく変わるため、クリエイターはAIごとにコツを掴む必要があります。ここでは、シナリオ作成とビジュアル生成を中心に、プロンプティングの具体例やポイントを紹介します。

シナリオ制作でのプロンプト活用

テキスト生成AIに物語を考えさせる際は、具体的かつ逐次的な指示が効果的です。いきなり長編の脚本全文を求めるのではなく、まず「あらすじ」→「各章ごとの展開」→「詳細な脚本」という具合に段階を踏むと良いでしょう。例えば以下のようなプロンプトを与えます。

  • 「女子高生がタイムスリップして戦国時代に迷い込む物語のあらすじを考えてください。起承転結のあるストーリーにしてください。」

このように依頼すると、AIは大筋のプロットを提示します。次に、

  • 「今のあらすじを基に、プロットを5章構成に膨らませてください。それぞれの章のタイトルと内容を箇条書きで。」

と指示し、ストーリーの骨子を整えます。最後に、

  • 「プロット第1章に沿って、シーンごとの詳細な脚本を書いてください。台詞も含めてください。」

と具体化していきます。途中でキャラクター設定に矛盾が出た場合は、

  • 「主人公が序盤と言動が変わっているので一貫性を持たせてください」

などフィードバックを与え、AIに脚本を修正させます​

note.com。この一連のやり取り(プロンプトエンジニアリング)により、まるでライターとブレストするように脚本を練り上げることができます。ポイントは、「誰が・どこで・何をして・どうなる」という要素をプロンプト内に盛り込みつつ、章立てや文体の指定も行うことです​

note.com。プロンプトを工夫することで、AIから引き出す物語のクオリティや方向性をコントロールでき、クリエイターの意図に沿ったシナリオを共同で作り上げることが可能になります。

ビジュアル制作でのプロンプト活用

画像生成AIでは、キーワードの選定と組み合わせ方が成果物を左右します。まず描きたいシーンやキャラクターの要素を洗い出し、プロンプトとして箇条書きで整理します​

note.com。例えば背景画を生成する場合、「時間帯(夕方)」「場所(東京の街並み)」「雰囲気(ノスタルジックで温かみ)」「画風(新海誠監督のような緻密な光表現)」などを列挙します。それらを一つの文章にまとめ、スタイルやアスペクト比の指定も追記すると良いでしょう。実際のMidjourney用プロンプト例:

  • /imagine prompt: Tokyo city street at dusk, warm nostalgic atmosphere, detailed anime art style, Makoto Shinkai-inspired lighting, --ar 16:9 --v 5

このように書くと、夕暮れの東京を舞台に新海誠風の美しい背景画が得られる可能性が高まります。コツは、スタイル参照やライティング、レンズ効果なども言及しておくことです。またバリエーション生成も重要な戦略です​

note.com。一度のプロンプトで気に入る画像が出なくても、言い回しを変えたり別の形容詞を試したりして複数回生成し、良い部分を比較検討します。キャラクターデザインでは特に、一貫性に注意します。同じキャラを何枚も描かせる際、毎回プロンプト表現を統一しないとデザインが変わってしまうため、髪型や服装など重要ポイントは毎回明示します​

note.com。場合によってはControlNetなどの技術で下描きやポーズを固定し、AIに清書させるアプローチもあります。

さらに高度なテクニックとして、ChatGPTに画像生成用プロンプトを作らせる方法があります。自分で長いプロンプトを書く代わりに、ChatGPTに「〇〇なシーンをMidjourneyで描きたい。必要なキーワードを列挙してプロンプト文を作成して」と依頼すると、適切に整形されたプロンプトを出力してくれます​

note.com。例えば「キャラクターの見た目」「背景の雰囲気」「色合い」などカテゴリごとにキーワードをまとめ、それらを一文に組み立てた上で--ar(縦横比)や--styleパラメータ付きのプロンプトを生成させることも可能です​

note.com。このようにAI同士を組み合わせて使うことで、人間はざっくりと要望を伝えるだけで済み、複雑なプロンプト文の最適化をAIが肩代わりしてくれます。

音声・映像分野でのプロンプト活用

音声合成や映像生成の分野でも、プロンプトの工夫でより望ましい結果を引き出せます。音声AIの場合、基本的には台詞テキストがプロンプトですが、対応するAIによって話者のスタイル感情パラメータを指定できるものもあります。例えば「[感情:喜]こんにちは!ありがとう。」のようにマークアップで喜びの感情を指示すると、笑顔が伝わる明るい声調で読み上げるAIサービスも存在します。また日本語の音声合成AIを使う際には、ひらがな・カタカナを適切に交えることでイントネーションを調整するテクニックがあります(難読漢字にはふりがなを振る等)。今後、声優の声を再現するAIが公式に増えてくれば、「〇〇さんの声で」「少年役のトーンで」といったプロンプト指定が可能になるでしょう。ただし声質の再現にはライセンスが絡むため、現状は限定的な実験に留まっています​

excite.co.jp

映像生成AI(例えばRunway Gen-2など)では、テキストプロンプトと併せて参照画像動画を与えることで精度を上げる手法があります。純粋なテキスト指示のみだと解釈のブレが大きいため、「夜の森を狼が走る」「映画マトリックス風のアクションシーン」といった文章に加え、質感の参考となる画像を一緒に入力することで出力動画のクオリティを高めることができます。プロンプトには映像の尺や構図も含め、「カメラはゆっくりパンしながら」「10秒程度の映像」と指示するとより実用的なクリップになります。もっとも、現時点の生成動画は荒さが残るため、得られた結果を編集ソフトで手直しする前提で使うのが現実的です。たとえば得られた動画の色調をDaVinci Resolveで調整したり、ブレ部分をカットしたりすることで完成度を上げます。ゆくゆくは「プロンプトで映像演出を細かく指定→AI生成→必要に応じ再プロンプトで修正」といった対話型の映像制作が可能になると期待されています。

事例研究:生成AIを導入する企業・プロジェクト

実際に国内外で生成AIを制作に取り入れた事例をいくつか紹介します。先進的な取り組みから業界の今が見えてきます。

Netflix×WITスタジオ「犬と少年」:AI背景の実験導入

【Netflix Anime Creators Base】とWIT STUDIOが共同制作した短編アニメ『犬と少年』(2023年1月公開)は、全カットの背景美術に画像生成AIを活用したことで大きな注目を集めました​

cartoonbrew.com。本作ではレイアウト(構図ラフ)をまず人手で描き、その後の背景をAIで生成、最終的に人間が手直しするというプロセスを取っています​

cartoonbrew.com。クレジット上では背景担当として「AI(+Human)」と表記され、AI開発企業として日本のrinna株式会社の名前が明記されました​

engadget.com。ディレクターの真木HARU洋氏は「ツールと手描きを組み合わせることで、人間にしかできない表現に集中でき表現の幅が広がった」とコメントしており​

animecorner.me、写真監督の田中宏治氏も「クリエイターの負担を減らし、創造に費やす時間を増やしたかった」と語っています​

animecorner.me。一方でこの試みに対してはSNS上で「人手不足は言い訳では」「AIに仕事が奪われる」という批判も巻き起こり​

cartoonbrew.com、生成AIの著作権問題(AIの学習に無断利用された既存作品が含まれる可能性)への懸念も表出しました。実験的な導入とはいえ、大手配信企業が生成AIを公言して用いた意義は大きく、背景美術の今後の在り方について議論を促す事例となりました。

東映アニメーション:背景自動生成&彩色AIの活用

日本を代表する東映アニメーションも、早くからAI技術の導入に取り組んでいます。前述の通り2021年にはPFN社と協業し、画像変換AI「Scenify」で写真をアニメ背景に加工する実験映像『URVAN』を公開しました​

preferred.jp。さらに同年5月には、キャラクターの彩色工程にAIを活用したことを発表しています​

dokidouki.net。具体的には、キャラの服の色塗りを自動化する独自ツールを試用し、作画スタッフの負担軽減を図ったとのことです​

cartoonbrew.com。背景と彩色はいずれも職人的技能が要求される部分ですが、東映のような大手スタジオが率先してAIを取り入れることで、生産効率の向上と若手育成(熟練の技術を補完するツールとして)の両面を狙っていると考えられます。東映アニメーションの高木勝裕社長は「作品本数が増える中でどう収益を確保するかが課題。AIを活用してコストを下げつつ新たな表現にも挑戦したい」とコメントしており​

cartoonbrew.com、AIによる制作コスト圧縮とクオリティ両立への期待を示しています。また今後、同社はTVシリーズや映画へのScenify本格導入も検討しているとされ​

preferred.jp、実験段階から実用段階への移行が注目されています。

グラフィニカ:AIでプリビズとモーション生成

グラフィニカはデジタル作画や3DCGを得意とするスタジオで、社内にR&D部門を設け新技術の研究にも力を入れています。2023年にはクリエイティブ企業交流会で「AI技術の活用事例や問題点、今後の展望」をテーマに登壇し、アニメ制作へのAI活用について議論しました​

branc.jp。具体的な事例として、文化庁の人材育成プロジェクト『あにめのたね』で制作した短編『POP POP CITY』において、AIモーションキャプチャを導入しています。前述のWonder Studioを使い、スタッフの演技映像からCGキャラの動きを自動生成し、それを基に原画を描き起こす手法を試みました​

cgworld.jp。この結果、実写さながらの臨場感あるレイアウトを短期間で作成でき、若手アニメーターが主体的に演技プランを提案するきっかけになったといいます​

cgworld.jp

cgworld.jp。グラフィニカのように実制作とR&Dを両輪で進める会社では、ゲームエンジン(Unreal Engine)とAIを組み合わせたリアルタイムレンダリングなど、次世代の制作ワークフロー確立にも意欲的です​

branc.jp。京都スタジオ代表の氏家氏は「生産性や品質を向上させる上で、いかにAIを使うかが重要」と述べ、クリエイターの創造性を支援する形でAIを取り入れていきたいとしています​

dokidouki.net

その他の事例:海外の取り組みと新興ツール

海外では、大手VFXスタジオや個人クリエイターまで幅広く生成AIが活用されています。特に話題となったのが、YouTubeで活躍する米国の制作集団Corridor Digitalが発表したAIアニメ風動画『Anime Rock, Paper, Scissors』です。彼らはグリーンスクリーンで撮影した実写映像にStable Diffusionベースの画像生成AIを適用し、実写を丸ごとアニメ絵に変換するという手法に挑戦しました​

kotaku.com。これは一種のAIロトスコープとも言えるもので、AIモデルに特定のアニメ作画スタイルを学習させてフレーム毎に適用しています。しかし、結果として出力映像には影のチラつきや崩れも多く、プロのアニメーターからは「既存アニメーターの情熱と技術を軽視したやり方だ」「別のアーティストの画風を盗んでいるだけだ」と厳しい批判が寄せられました​

kotaku.com

kotaku.com。この事例は、生成AIによる作画の大量自動化が技術的に可能である一方、倫理的・技術的問題が未解決であることも浮き彫りにしました。

他にも、ハリウッド映画の現場ではAIによるプリビズ動画生成ディープフェイク技術を使った映像編集が進んでいます​

skimai.com。最近登場したWonder Studio(先述)や、NVIDIAのAudio2Face(声に合わせて3Dキャラの表情を自動生成)など、クリエイティブとAIを融合するツールが次々とリリースされています​

garagefarm.net。スタートアップ企業も自動編集AIAI映像素材検索などで映像制作の効率化に参入しており、個人がスマホ一つで高品質なアニメ動画を作れるサービスも登場しつつあります​

note.com

note.com。たとえば前述の「AnimeGPT」や日本発の「Nizima Voice」「CoeFont」などは、アニメ向けの特化機能を備えたAIツールです​

note.com。総じて、生成AIはプロのスタジオからインディーズのクリエイターまで幅広い層に受け入れられ始めており、それぞれの目的に応じて適材適所で使われています。

業界の課題と今後の展望

生成AIの活用は大きな可能性を秘める一方で、アニメ・映像業界ならではの課題や懸念も指摘されています。最後に、クリエイターの役割変化や倫理・法的側面、そして今後の展望について整理します。

クリエイターの役割とスキルの変化

AIが制作工程の一部を担うようになると、クリエイターの役割にも変化が生じます。背景や動画の自動生成が進めば、これまで手を動かしていたアーティストはAIの出力を監修・修正する役割にシフトするでしょう。いわば「AIアシスタントを使いこなすディレクター」的なポジションです。若手にとっては反復作業が軽減され表現の提案に時間を割けるメリットがある反面、職人的技術の習得機会減少を危惧する声もあります。「下積み工程をAIが肩代わりすると、人間は創造的な上流工程に専念できる」との意見もあれば、「AI任せで基礎力が身につかず業界全体のスキルが細ってしまうのでは」との懸念もあります。また、AIが吐き出す無数のバリエーションから優れたものを見極めるには審美眼ディレクション力が求められます。プロンプトの巧拙も含め、今後は**「AIを使えるクリエイター」が重宝されるとの指摘もあります。実際、IMART2023のセッションでも「現場レベルではトライアルが始まっている。唯一無二のアート的側面はさておき、産業として生産性や品質向上のためにどうAIを使うかが重要」との意見が出されました​

dokidouki.net。つまり、創作の魂そのものは人間が担保しつつ、生産の手段としてAIを二人三脚で受け入れる道が模索されているのです。クリエイターにはAIを敵視するのでなくツールとして共存**していくマインドセットが求められるでしょう。

生成AIがもたらす業界構造の変化

生成AIの普及は、アニメ業界の構造にも影響を与える可能性があります。一つは人材不足や長時間労働の是正です。Netflixが『犬と少年』で「人手不足への対策」としてAI背景を導入したように​

cartoonbrew.com、慢性的なアニメーター不足・過重労働問題の緩和策としてAIが位置づけられています。AIが定型的な作業を引き受けることで、一人当たりの作業量が減りワークライフバランスが改善する期待があります。また、低コストで大量の動画や美術を生産できれば、作品一本あたりの予算配分やビジネスモデルにも変化が及ぶでしょう。現在は大ヒット作でないと利益が出にくい構造にありますが​

cartoonbrew.com、AI活用で制作費を抑えられればニッチな企画や実験的作品にもゴーサインが出やすくなるかもしれません。さらに、個人制作の台頭も見逃せません。以前はスタジオに属さないと困難だったクオリティの映像制作が、生成AIと安価なクラウドサービスにより個人でも実現可能になりつつあります​

note.com

note.com。才能あるクリエイターが少人数でコンテンツを生み出し、YouTubeや配信で直接発表するといった事例が増えれば、従来の制作委員会方式にも影響を与えるでしょう。もっとも現時点では、IMARTセッションで指摘されたように「できることは見えてきたが、**現場に広く浸透している状況ではない】」のが実情です​

dokidouki.net。トップランナーの事例が徐々に共有され、業界内でノウハウやガイドラインが整備されていく段階にあります。

著作権・倫理面の課題

生成AIを語る上で避けて通れないのが著作権や倫理の問題です。AIは過去の膨大なデータから学習して出力を生成するため、訓練データに含まれた既存作品の影響を完全には排除できません。そのため、「AIが描いた絵は他人の作品の盗用ではないか」「訓練に無断使用されたアーティストの権利はどう守るのか」といった議論が世界中で起きています。実際、海外ではStable Diffusion開発元が著名アーティストの画風を無断学習させたとして集団訴訟された例や、画像素材大手のGetty ImagesがAI企業を提訴した事例があります。また米国著作権局はAI生成物に著作権は認められないとの判断を下しており​

forbesjapan.com

docusign.com、人間が関与しない生成物は保護対象外となる可能性が高いです。日本でも、文化庁が「AIで生成した画像・文章は創作性が認められず著作物に該当しない」との見解を示しています​

docusign.com。つまり、AIが自動生成しただけのシーンや美術には著作権が発生せず、極端に言えば誰でも二次利用できてしまう状況です。これを補完するためには、人間がどこかで創作的関与をする(AI生成物に手を加えるなど)ことが必要とも言われます​

bunka.go.jp。さらに、AIがもし既存作と酷似した絵を出力しそれを使用した場合、従来通り著作権侵害に問われるリスクもあります​

baycross.jp。このように法整備が追いついていない部分が多く、スタジオ側も慎重な姿勢を崩していません。

倫理面では、先述の声優ボイスの問題が顕著です。声の無断生成に対し、声優有志が「NOMORE無断生成AI」という声明を出し「自分たちが演じていない音声や歌がネット上で勝手に公開・販売されている」と訴えました​

excite.co.jp。これはAIによる勝手な声真似や演技生成への危機感の表れであり、「声は声優自身の人生の一部であり財産だ。技術の使い方を皆で考えたい」というメッセージが発せられています​

excite.co.jp。キャラクターデザインや作画の世界でも、無断でアニメーターの画風を学習させたAIモデルが出回る可能性が指摘されています。クリエイターの作家性や権利をどう守るかという観点で業界団体や企業が動き始めており、声優事務所大手の青二プロダクションはAI音声プラットフォームと提携し公式ライセンスのAI声優ビジネスを模索しています​

excite.co.jp。今後、イラストレーターやアニメーターについても、公式に自分のスタイルをAIに提供して収益化するようなスキームが出てくるかもしれません。いずれにせよ、クリエイターの権利とAI利活用のバランスをとるルール作りが急務となっています。

これからの展望:共創と新表現の可能性

課題は多いものの、生成AIがもたらすポジティブな展望も見据える必要があります。AIはあくまでツールでありパートナーであって、人間の創造性を代替するものではないという考え方が重要です​

excite.co.jp。むしろルーチンワークから解放されたクリエイターは、より大胆な発想や繊細な表現に注力できるようになるでしょう。例えば、AIが大量生産した美術背景をベースに、その上に人間が唯一無二のアート表現を施すといったハイブリッドな制作が増えていくかもしれません。実際、『犬と少年』の真木監督も「人間にしかできない表現に集中できた」と述べており​

animecorner.me、AIとの共創が新たな映像表現を生む手応えを感じています。

今後は、プロンプトを操るクリエイティブディレクターや、AIモデルを調教するデータキュレーターといった新職種も登場するでしょう。従来の手描き作業だけでなく、3Dやプログラミング、データサイエンスの知識を持った人材がアニメ制作に参画し、異分野融合的なチームで作品を作る時代が来るかもしれません。日本のアニメーションは伝統的に手作業の蓄積で発展してきましたが、そこに最新テクノロジーを柔軟に取り入れることで、表現の幅は飛躍的に拡大します。たとえば、視聴者が好きなようにストーリー分岐を選べるインタラクティブアニメや、視聴者自身の写真を元にAIがキャラクターを生成して物語に登場させるカスタマイズアニメなども実現可能となるでしょう。

業界としては、クリエイターの創造性を最大限引き出しつつ、経済的持続性も両立する道を探る必要があります。生成AIはその突破口となり得る技術ですが、人間中心のクリエイションという原点を忘れては本末転倒です。今後、法律や倫理の枠組みが整い、クリエイターとAIがお互いの強みを尊重し合う形で協働できれば、アニメ・映像の世界にこれまでになかった感動や驚きが生まれることでしょう。グラフィニカをはじめとする先進企業の挑戦と業界全体の知恵の集積により、来るべき「AI時代のアニメ制作」はクリエイティブ産業の新たな地平を切り開いていくに違いありません。

参考情報・引用リスト

  1. 【Netflix Japan公式】「『犬と少年』は、人手不足のアニメ業界を補助する実験的取り組みとして、3分間の映像全カットの背景画に画像生成技術を活用!」(2023年1月31日)​cartoonbrew.com
  2. Anime Corner ニュース: “Netflix, WIT Studio Release The Dog and The Boy Anime Short With AI-Generated Backgrounds” – 監督・真柴氏と田中氏のコメント(2023年1月31日)​animecorner.meanimecorner.me
  3. Cartoon Brew: “Netflix Faces Backlash After Using AI Software To Create Backgrounds For An Animated Short” – Twitter発表内容とクレジット表記、批判の概要(2023年2月2日)​cartoonbrew.comcartoonbrew.com
  4. Preferred Networks プレスリリース: 「東映アニメーションとPFN、AI技術を活用したアニメ制作効率化の共同実証」 – 背景生成ツール「Scenify」の効果(2021年3月12日)​preferred.jppreferred.jp
  5. CGWORLD.jp ニュース: 「RADIUS5、アニメ背景を生成するAI『Anime Art Painter』をリリース」 – AI背景生成サービスの概要と速度・コスト比較(2021年8月)​cgworld.jpcgworld.jp
  6. IMART2023 セッションレポート(ドキドーキ!): 「アニメ業界はいかにしてAIに向き合うのか」 – 東映の事例紹介と中山氏コメント(2024年2月22日)​dokidouki.netdokidouki.net
  7. CGWORLD.jp 特集: 「グラフィニカとStudioGOONEYSが語る技術継承 – 『POP POP CITY』事例」 – プリビズ工程でのAIツール(Wonder Studio)活用詳細(2024年3月)​cgworld.jpcgworld.jp
  8. Kotaku: “That ‘AI-Generated’ Anime Is A Slap In The Face To Pro Animators” – Corridor DigitalのAIアニメ動画をめぐる議論(2023年3月3日)​kotaku.comkotaku.com
  9. Exciteニュース: 「声優・梶裕貴、公式AIプロジェクト『そよぎフラクタル』で自分の声を合成音声化」 – 本人コメント「AIの善悪は使用者のモラル次第」(2024年5月24日)​excite.co.jpexcite.co.jp
  10. Exciteニュース: 「声優有志『NOMORE無断生成AI』始動、声明動画を公開」 – 声優陣の訴え「覚えのない声が公開・販売されている」(2024年10月16日)​excite.co.jpexcite.co.jp

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